トンネルの3D計測をSLAMで行う手順|断面管理・変位計測の実務

トンネルの3D計測をSLAMで行う手順|断面管理・変位計測の実務

LS600|都市測量

トンネルの中ではGNSSが届きません。かといって地上型レーザースキャナーで数百メートルの区間を面で押さえようとすると、据え替えの回数が工程に見合わなくなります。ハンドヘルドSLAMがトンネル計測で選ばれるのは、この2つの制約を同時に回避できるからです。

ただしトンネルは、SLAMにとって最も苦手な形状でもあります。断面がほとんど変わらない筒状の空間では自己位置推定の誤差が延長方向に溜まっていき、計測計画を誤ると、断面は正しいのに位置がずれた——成果品として使えない点群ができあがります。

本記事では、計測計画の立て方からドリフト対策、断面管理と内空変位の経年比較までを、現場の手順に沿って整理します。

なぜトンネルでSLAMが選ばれるのか

トンネル計測の手法選定は、GNSS可用性と据え替え回数の2条件でほぼ決まります。坑口から数十メートル入れば衛星測位は使えません。UAVレーザーは上空からの計測が前提であり、トンネル内には適用できません。地上型レーザースキャナー(TLS)は精度で有利ですが、延長数百メートルの区間を面で押さえるには据え替えを何十回も繰り返す必要があり、工程と交通規制の制約下では成立しないことが多くあります。

ハンドヘルドSLAMは、歩きながら周囲形状から自己位置を推定して点群を積み上げるため、この2つの制約を同時に回避できます。延長方向に連続した点群が一度の通行で得られることが、トンネルという細長い空間では決定的な利点になります。TLSとの一般的な使い分けはハンドヘルドSLAMスキャナーと地上型レーザースキャナー(TLS)の違いで整理しています。

道路トンネル
道路トンネル延長が長く交通規制の時間が限られる。連続計測できる手法が要求される
ハンドヘルドSLAMスキャナー
ハンドヘルドSLAM歩行しながら延長方向を連続取得。据え替え不要で規制時間内に完了できる
点群の解析作業
後処理断面切り出し・変位比較。工数の大半はこの後工程に発生する

トンネルがSLAMにとって難所である理由

SLAMは周囲形状の変化を手がかりに自己位置を推定します。ところがトンネルは、進行方向に沿って断面形状がほぼ変わらない筒状空間です。直前のフレームと現在のフレームがほとんど同じに見えるため、「どれだけ前進したか」の推定が不安定になります。これがトンネル特有のドリフト、とくに延長方向の伸縮誤差を生みます。

✕ 片道のみ・標定点なし 延長方向に伸縮誤差が蓄積 断面形状は正しいが位置がずれる ◎ 往復+区間標定点 区間ごとに拘束され誤差が閉じる ■ = 標定点
図1: 筒状空間では片道計測で延長方向の誤差が蓄積する。往復経路と区間標定点の併用が実務上の標準対策。

ここで重要なのは、この誤差は「断面形状の正しさ(相対精度)」ではなく「位置の正しさ(絶対精度)」に現れる点です。断面だけ見れば良好な点群が、延長方向では数十センチずれていることが起こり得ます。この区別については点群の相対精度と絶対精度の違いで詳しく解説しています。

計測計画:経路と標定点の設計

トンネル計測の成否は、現場に入る前の経路設計と標定点配置で8割が決まります。設計の要点は4つです。

設計項目 実務上の原則
経路 片道で終わらせず、往路と復路で異なる横断位置を通る。壁際と中央を組み合わせると見え方が変わり、推定が安定する
区間分割 長大トンネルは一度に取り切らず区間に分割する。区間の境界に標定点を置き、後処理で結合する
標定点 坑口の既知点からトンネル内へ基準点を導入し、延長方向に一定間隔で配置。範囲の端部を挟む
検証点 標定点とは別に独立して設置。座標変換後の較差で精度を評価する(兼用は評価にならない)
坑内基準点の導入が最大の作業: トンネル内の絶対座標は、坑口の既知点からトータルステーション等で導入するほかありません。この導入作業の精度が成果品の絶対精度の上限を決めるため、機器の選定より先に基準点測量の計画を固めます。
基準点観測の作業

坑外から坑内へ座標をつなぐ

GNSSが使えるのは坑口までです。そこから先はトラバース測量等で座標を送り込みます。誤差はここで決まるため、区間長と観測精度の設計が要になります。

現場作業の手順

規制時間が限られる現場では、手順の標準化が品質を左右します。実務の流れは次のとおりです。

1. 初期化

特徴の多い坑口付近で初期化し、静止状態から開始する。筒状部の途中で開始しない。

2. 標定点の取得

ターゲットまたはコントロールポイント記録機能で標定点を点群上に確実に残す。

3. 定速歩行

速度を一定に保つ。急な旋回・上下動を避ける。壁面と天端が視野に入る姿勢を維持。

4. 往復・閉合

復路を通り、開始点へ戻って閉合させる。区間ごとに同じ手順を繰り返す。

5. 現場確認

ライブプレビューで欠測を確認。取り直しは現場でしかできない。

6. 後処理

SLAM最適化・標定点による座標変換・ノイズ除去・区間結合。

照明条件はレーザー計測そのものには影響しませんが、カメラによるカラー付与を行う場合は暗部で色情報が劣化します。

断面管理への展開

点群を取得する目的の多くは、任意断面の切り出しです。従来は測点ごとに断面を実測していましたが、面で取得した点群からは、後処理で任意の測点位置に断面を発生させられます。設計断面と重ねれば、余掘り・不足の分布がそのまま可視化されます。

点群 → 任意断面 → 設計照合 取得点群の断面 設計断面(点線)と重ねる 得られる成果 ・任意測点の断面図 ・余掘り/不足の分布 ・内空断面の確保確認 ・数量計算の基礎データ
図2: 面で取得しておけば、後処理で任意測点の断面を発生させられる。測点位置を現場で決め打つ必要がなくなる。

内空変位の経年比較

同一トンネルを複数時期に計測して差分を取ると、変位や変状の分布が面で把握できます。ただしこれが成立する条件は厳しく、両時期の点群が同一座標系上で同等の絶対精度を持っていることが前提になります。座標系が揃っていない、あるいは一方の絶対精度が低い場合、差分は実際の変位ではなく計測誤差を映してしまいます。

したがって経年比較を目的とする計測では、初回計測時の標定点を物理的に残し、次回も同じ基準点を使うことが実務上の要点になります。点検の周期に合わせた記録の設計が、後年のデータ価値を決めます。橋梁を含む点検用途の考え方は点群による出来形管理の進め方とも共通します。

点群の差分解析作業
経年比較は後処理の精度管理が本体。座標系の一貫性が担保されていない差分は、変位ではなく誤差を可視化してしまう。

失敗パターンと対策

失敗 原因と対策
延長方向にずれた点群ができる 片道計測によるドリフト。往復経路と区間標定点で拘束する
途中で自己位置を見失う 特徴の乏しい区間での急旋回や速度過大。定速歩行と姿勢の維持
坑内の絶対座標が合わない 坑外から坑内への座標導入の精度不足。基準点測量の計画を先に固める
経年比較が成立しない 両時期で座標系や標定点が異なる。初回の基準点を残し同一条件で再計測する
規制時間内に終わらない 区間分割と手順の標準化が不十分。事前に経路を図面上で確定させる
天端付近が欠測する 計測姿勢と射程の設定。現場でライブプレビューを確認し取り直す

よくある質問

トンネル計測にTLSではなくSLAMを使って精度は足りますか?

要求精度と対象によります。断面形状の把握や内空断面の確認であれば実用域に入りますが、より厳しい規格値が求められる対象ではTLSとの併用や使い分けを検討します。適用可否は要求される精度と、公共測量として行う場合の規定に照らして判断してください。

照明のない素掘りトンネルでも計測できますか?

レーザー計測自体は自ら光を出すため暗所でも成立します。ただしカメラによるカラー点群の生成は暗部で品質が落ちます。色情報が成果品に必要かどうかで照明計画を判断します。

延長が長いトンネルは一度で計測すべきですか?

分割を推奨します。一度に長く取ると誤差が蓄積し、後処理で補正しきれなくなります。区間境界に標定点を配置し、区間ごとに拘束をかけて結合する方が安定します。

公共測量としてトンネル内の計測に使えますか?

LidarSLAM技術を用いた計測を公共測量に使用する枠組みは定められており、精度・性能試験や作業手順の規定に従うことが条件になります。詳細はLidarSLAM技術を用いた公共測量マニュアル解説をご覧ください。

トンネル計測の計画から成果品作成までご相談ください

APEX株式会社は、ハンドヘルドSLAM・地上型レーザースキャナーによる計測から断面図作成・差分解析まで一貫して対応しています。延長・規制条件・要求精度をお聞かせいただければ、適した手法と計測計画をご提案します。機種選定はハンドヘルドSLAMスキャナー比較もご参照ください。

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