点群の相対精度と絶対精度の違い|カタログ精度を現場の成果品精度に読み替える
カタログに「相対精度2cm」と書かれたスキャナーで取得した点群が、現場では数cm単位でずれている——珍しい話ではありません。原因は機器の不良ではなく、相対精度と絶対精度がまったく別の指標だからです。
相対精度は点群の内部の形が正しいかを表し、絶対精度はその形が座標系の正しい位置に置かれているかを表します。前者がどれほど良くても、後者は保証されません。この違いを踏まえずに機種を選ぶと、「カタログどおりの精度が出ない」という事故が起きます。
本記事では、カタログ値を成果品の精度に読み替える考え方を、標定点・検証点・較差という実務の言葉で整理します。
相対精度と絶対精度の定義
相対精度とは、点群内の2点間の距離や形状が、実際の対象物とどれだけ一致しているかを示す指標です。たとえばトンネル断面の内径、部材の厚み、法面の勾配といった「その場の中での寸法」の正しさを表します。座標系がどこにあるかは問いません。
絶対精度とは、点群の各点が、指定された座標系(公共測量なら平面直角座標系と標高)上の真の位置とどれだけ一致しているかを示す指標です。設計データと重ね合わせる、他日に取得した点群と比較する、地図に載せる——こうした用途で効いてくるのは絶対精度です。

両者の関係は「定規の目盛りの正確さ(相対)」と「その定規をどこに置いたかの正確さ(絶対)」に例えられます。目盛りが完璧な定規でも、置き場所が10cmずれていれば、そこから読み取った座標は10cmずれます。逆もまた然りで、置き場所が完璧でも目盛りが伸びていれば寸法は狂います。成果品の品質は、この2つの誤差が合成されたものとして現れます。
なぜSLAMは相対精度で語られるのか
ハンドヘルドSLAMスキャナーのカタログが相対精度を主指標として掲げるのには、技術的な理由があります。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)は、周囲の形状の変化から自己位置を推定しながら点群を積み上げていく方式です。つまりSLAMが本質的に得意なのは「自分の周りの形を正しく作ること」であり、それは相対精度の話です。
ハンドヘルドSLAM
自己位置を周囲形状から推定。GNSS不要で屋内・桁下も計測可能。ただし絶対座標は外部から与える必要がある。
UAV LiDAR
GNSS/IMUで飛行軌跡を復元し点群を紐づけるため、最初から絶対座標系の中で点群が生まれる。
地上型レーザー(TLS)
据え置きで高い相対精度。絶対座標はターゲット標定またはGNSS併用で付与する。



一方でSLAM単体は自分が地球上のどこにいるかを知りません。GNSSが届かない屋内・トンネル・橋梁桁下でも計測できるという最大の長所は、裏返せば「絶対座標を外部から与えなければ絶対精度がゼロである」ことと同義です。RTK GNSSを搭載した機種は屋外で絶対座標を取得できますが、その恩恵は空が開けている区間に限られます。ハンドヘルドSLAMとTLSの使い分けはハンドヘルドSLAMスキャナーと地上型レーザースキャナー(TLS)の違いで詳述しています。
カタログ精度を現場精度に翻訳する
カタログ精度は「メーカーが定めた理想条件での値」であり、現場条件で劣化する前提で読む必要があります。実務では次の4つの補正要因を考えます。
| 要因 | 精度が落ちる条件 | 対策 |
|---|---|---|
| 計測環境 | 特徴点の少ない長い直線トンネル、広大な平坦地、動く物体が多い市街地 | 凹凸や構造物が視野に入る経路を選ぶ |
| 移動速度・経路 | 歩行が速すぎてフレーム間の対応付けが粗くなる | 速度を落とす/同じ場所を通り直す |
| 計測時間 | 長時間の連続計測による誤差蓄積(ドリフト) | 閉ループを組む/区間分割する |
| 標定点の配置 | 点数不足・配置が中央寄り | 範囲の端部を挟むように分散配置 |
絶対精度を作るのは機器ではなく標定点
絶対精度は機器の性能ではなく、標定点(基準点)の測設精度と配置設計で決まります。
SLAM点群に絶対座標を与える手順は次のとおりです。計測範囲内にターゲットを設置し、その座標をトータルステーションやネットワーク型RTK-GNSS測量など、要求精度を満たす手法で測定します。取得した点群上で同じターゲットを識別し、標定点座標に合わせて点群全体を座標変換します。
ここで重要なのは、標定点の座標そのものの精度が、成果品の絶対精度の上限を決めてしまう点です。標定点が5cmずれていれば、どれほど高性能なスキャナーを使っても、その領域の点群は5cmずれます。機器のカタログ精度を追う前に、基準点測量の品質を担保することが順序として正しいアプローチです。
成果品精度の上限を決めるのはここ
標定点の座標を測設する作業。ここで生じた誤差は、後段のどんな高性能スキャナーでも取り戻せません。機種選定より先に基準点測量の品質を固めるのが正しい順序です。
公共測量に用いる場合の具体的な要求事項はLidarSLAM技術を用いた公共測量マニュアル解説で整理しています。
検証点による精度確認の実務
標定点と検証点は役割が異なります。標定点は点群を座標系に合わせるために使い、検証点は合わせた結果を評価するために使います。座標変換に使った標定点で精度を評価すると、当然良い数字が出るため、評価としての意味を持ちません。
実務の手順は次のようになります。標定点とは別に独立した検証点を計測範囲内に分散して設置・測定し、座標変換後の点群から検証点位置の座標を読み取り、正解値との差(較差)を水平・鉛直それぞれについて算出します。得られた較差から標準偏差や二乗平均平方根誤差(RMSE)を求め、要求精度を満たしているかを判定します。
| 検証点 | 水平較差 ΔH | 鉛直較差 ΔV | 判定 |
|---|---|---|---|
| No.1 | — | — | 各点の較差を記録し、 標準偏差・RMSEを算出して 要求精度と比較する |
| No.2 | — | — | |
| No.3 | — | — | |
| RMSE | — | — |
※精度管理表の様式イメージ。実際の記載項目・要求値は適用する要領に従います。
SLAM特有の誤差:ドリフトと閉ループ
ドリフトとは、自己位置推定の微小な誤差が移動距離とともに蓄積し、点群が徐々にねじれていく現象です。長い直線トンネルを片道だけ歩いて計測した場合、出発点付近の相対精度は良好でも、終点付近では大きくずれるという結果になり得ます。この場合、カタログの相対精度は嘘ではないものの、成果品としては使えません。

長大な区間では、中間に標定点を配置して区間ごとに拘束をかける方法も併用します。つまりSLAMの精度は、機種選定と同じかそれ以上に、計測計画の設計で決まります。同じ機材でも、経路設計の善し悪しで成果品の質は大きく変わります。
機種選定への落とし込み
| 用途 | 重視すべき指標 |
|---|---|
| 寸法測定 設備干渉チェック・部材の出来寸法・断面形状 |
相対精度。座標系との整合が不要なため相対精度が本質になる |
| 設計照合・経年比較・地図化 | 絶対精度の担保手段。機器のRTK搭載有無だけでなく、標定点作業をどう組むかまで含めて計画する |
| カタログ値の読み方 | 測定条件(距離・環境・閉ループ有無・単一/複数統合)の確認。条件が書かれていない精度値は比較に使えない |
| 公共測量への使用 | 要求される精度・性能試験の実施可否。機器性能を証明する試験結果が必要になる |
機種ごとの精度・重量・価格帯の比較はハンドヘルドSLAMスキャナー比較と選び方【全8機種】に、UAVレーザー測量における点群の「厚み」という別軸の品質指標についてはUAVレーザー測量の品質を決めるものにまとめています。



よくある質問
用途によって変わります。寸法や形状を知りたいだけなら相対精度、設計データとの照合や他時期データとの比較を行うなら絶対精度が重要です。公共測量の成果品では原則として絶対精度が問われます。
絶対精度は機器単体では決まらず、標定点の測設精度・配置・計測計画といった運用側の要因に強く依存するためです。メーカーが保証できるのは機器起因の相対精度までであり、絶対精度は計測を行う側の設計品質の結果として現れます。
可能です。屋外の既知点から屋内へトータルステーション等で基準点を導入し、それを標定点として点群を座標変換します。この作業品質が屋内点群の絶対精度を決めます。
なりません。両者は独立した誤差要因です。相対精度が優れた点群でも、標定点の精度が低ければ絶対精度は低くなります。逆に標定点が高精度でも、点群内部にドリフトによるねじれがあれば局所的な誤差は残ります。
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